愛猫を亡くした知人に花を

先日、知人の愛猫が死んだそうだ。 息を引き取った、虹の橋を渡った、永い眠りについた……色々な言い方がある。 周りが「死」をどう表現しようともそこにあるのはただの「死」だ。 余計な何かを付け加えることが憚られる。 自分はその猫に、そして知人に梅の…

春先のこと

春の日差しと冬の風。鳥のさえずりはたしかに春のもの。 フェンスの向こうには水やりをする黒い背中。 私を撫ぜる風は冬を忘れるなと少し不貞腐れている。 横には椿が咲いている。なんて鮮やかなのだろう。私の目が潤むのは花粉症だからではない。そもそも花…

音のスケッチ 春 散歩道にて

風が吹いた。少しずつ木々が声を上げ、次の強い風にみんなが声を上げた。一番声を上げているのは右の木だ。 鳥の鳴き声がする。 後ろを歩く人の靴音。駐車された車のドアが閉まる音。靴音は老夫婦だったようだ。濃いグレーの車に乗り込んだ。エンジンがかか…

叶わないであろう約束を祖母とした。

冬の終わり。春の気配を少し感じる頃に祖母と約束を一つした。あたたかい大判焼きを一つ、半分こして食べた。それは約束というより、おそらく叶えられることがないであろう夢だ。 「一緒にこの大判焼き屋さんまで歩こう」 「これはカスタードでね、他にもあ…