冬の終わり。春の気配を少し感じる頃に祖母と約束を一つした。
あたたかい大判焼きを一つ、半分こして食べた。
それは約束というより、おそらく叶えられることがないであろう夢だ。
「一緒にこの大判焼き屋さんまで歩こう」
「これはカスタードでね、他にもあんことか抹茶とか、チーズあんっていうのもあったよ」
祖母は年々歩くのが容易ではなくなり、アルツハイマー型認知症の影響もあり外に出かけるのを躊躇うことが多くなった。
少し遠いけれど、歩いていける距離の大判焼き屋さん。
10月半ばから開店する大判焼き屋さん。
果たして行けるだろうか。
きっと行けないんだろうな。
この約束、もう覚えていないんだろうな。
それでも「おいしい」と笑ってくれた。
練習に「頑張って駅まで歩くようにします!」と言ってくれた。
きっと叶わない約束は自分の胸の中にずっとあり続ける。
きっと叶わない。
きっと、叶わない。
少し泣いた。