自分は単純な人間なので、ショートショートを読めばショートショートを書いてみたくなる。
そうして学生の頃の使いかけのノートといつから家にあるのかわからないロケット鉛筆を用意した。
ショートショートに登場人物はいるのだろうか。
心の中の星新一に尋ねてみる。
エヌ博士を連れてきてくれた。
「必要かはわからないけど、試しに彼を書いてごらんよ」
そう言って顔も知らぬ星新一はパイプをくわえてよさげなイスに深く腰掛けた。
「はじめまして」
「はじめまして」
一方的に知っているものの、会うのは初めてだ。
沈黙が流れる。
そりゃそうだ。
自分が書かなければ彼は動かない。
ちらりと星新一を見やる。
ニヤニヤしながらこちらを見たり、興味なさそうにパイプをふかしたり、
いくつもの顔を持つ人だ、この人は。
エヌ博士はまだ動かない。
長年の疑問をぶつけてみる。
「エヌはやっぱりイニシャルなんですか?」
あっはっはっはっはっはっ
一瞬きょとんとした顔をしておなかを抱えて笑っている。
───笑われた。
星新一も笑いを隠しきれていない。
くっくっくっくっくっくっ
───おぬしら…。
その気になれば自分は君たちを笑い地獄に落とすことだってできるのだぞ。
そうして決まったタイトル「笑い地獄」。
ショートショートってこんなものでいいのか?
星新一を見ても、まだ笑っている。