「図書館」で短歌

ここでだけ僕はまともな人になる本を読んだらひとになる

図書館は資料と場所を提供す利用者の名札を僕に提供す

パラパラと最後のページにひも栞やさしく閉じたていねいな人

挟まれた虫の死骸も愛おしき読まれた時間が再び開く

奥付に水ぬれ跡の印あり雨の日を共にでかけた文庫本

第5巻誰かの跡を追う図書館で早く読んでよ第6巻

空港のところで私泣きました感想託し返却してる

4段目あなたと目線が交差しない向こうのあなたは背表紙ばかり

負け知らず勝とうとしなくなったとき男の背中広くやさしく

植木鉢床のボルトのそばにある緑のやさしさ誰だ好きだぞ

4文字で公演中止8文字でこうえんちゅうし手帳に黒字

おなかには重い責任隣にはいないあいつがあたしを殺す

産まなけれそれより先は言えなくて泣かないでねと子どもに私に

ペン回し上手い人だけ許される自習室にはノックの音だけ

日当たりのいい席どこにありますか本を片手にまぶたの裏へ

あちこちに置かれた椅子にひとつだけ私の形に沈んだへこみ

雨の日の机と椅子は自由だな本は濡れたら終わりだもんな

旅をする図書館帰り深夜帯冒険譚を語る本たち

本を閉じタイムリープをしているなすっかり暗くなった夕暮れ